山岳信仰とは
山を崇め奉る信仰である。基本的には山や、山にある大木、巨大な岩を信仰母体とすることが多い。 山岳信仰の始まり 山岳信仰は縄文時代に狩りの獲物をもたらし、家屋の材料や燃料を与えてくれるのは山であるから、縄文人が山に対する感謝と畏敬の念をもっていたことから始まり、山を神として崇拝し、一方で恐れるということは、農耕の伝播以降に始まったと考えられる。 山に対する信仰の基本は、豊かな収穫を祈ることにあったから、山の神は実際には田の神であった。山の神が農作業の時期に山から降りてきて田の神になるというところも少なくなかった。
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宗教民俗学者の堀一郎は、わが国における山岳信仰の始まりを火山系、水分(みくまり)系、葬所系の三つの型に分けて考えている。
火山系とは火山が噴火し、爆発することに人間が畏怖の念を抱いたことに起源するものである。激しく活動する火山の姿は、それだけでも何か超自然的な力の存在を感じさせる。噴火の原因やメカニズムを知っている私たちですらそうなのであるから、当時、火山そばに住んでいた人たちが火山を崇拝するようになるのはごく自然ななりゆきといえよう。
水分系というのは、分水嶺即ち水源の山に対する信仰である。農耕を営む人々にとっては山は生命の源であり、かつ水害を引き起こす脅威でもあった。こうした山に対する感謝の念と畏敬の念が山岳信仰を発生させてのである。 葬所系というのは、人が死ぬとその霊は高いところに行くという考えから出てきたものである。山は霊の棲む場所とされ、さらに使者を葬る場所にもなったことから祖霊の居場所ともなり、人が最期の還っていく場所ともみなされるようになった。 各地の著名な山岳信仰はこの分類の何れかにあてはまるといえる。
小泉 武栄著「登山の誕生」中央公論新社刊 2001年6月25日 |